死亡慰謝料について②

前回、死亡慰謝料の具体的金額について、代表的な裁判例をご紹介しました。
前回紹介しきれなかった事例や少し特殊な事例について、今回ご紹介しようと思います。
まず、高齢者の場合をご紹介します。
その後、内縁の夫婦事実婚)だった場合の裁判例をご紹介します。内縁の場合には、内縁の夫婦はお互いに相続権がありませんので、死亡されたご本人の慰謝料を相続することができません。ですが、内縁の配偶者の死亡により、通常の夫婦と変わらない精神的ショックを受けるのが通常ですので、内縁の配偶者固有の慰謝料請求は認められますが、金額は通常の夫婦の場合と同様ではありません。

高齢者の場合

主婦(75歳女性)が死亡した場合について、1800万円の本人の慰謝料、夫・2人の子どもに合計600万円の固有の慰謝料を認め、総合計2400万円の慰謝料を認めたものがあります(横浜地裁判決平成21年2月19日)。高齢者の場合、裁判基準の「その他」として、通常2000万円~2200万円とされていますが、それを上回っています。高齢者だからという理由だけで慰謝料が減額されるわけではないと思われます。

高齢者の場合

主婦(83歳女性)が死亡した場合について、2400万円の本人の慰謝料を認めたものがあります(東京地裁判決平成22年10月12日)。被害者の方は、息子とその妻子と同居しており、息子夫婦が共働きだったために家事の多くを行っていました。本人の慰謝料を相続した分の請求以外に、近親者固有の慰謝料請求は行われていないため、本人の慰謝料しか認められていません。ですが、前記横浜地裁の判決における近親者固有の慰謝料を含めた総合計金額と同額の慰謝料が認められていますので、結論的には近親者固有の慰謝料の有無は総額に関して影響がないというようにも考えられます。事故態様としては、,前方不注視の過失が認められていますが、特段の重大な過失とまで認められているわけではないようです。裁判所は、慰謝料以外にも、専業主婦としての逸失利益や年金の逸失利益を認め、認められた逸失利益の合計金額は約870万円となりました。

内縁の夫婦の場合

会社員(55歳男性)が死亡した場合について、内縁の妻の固有の慰謝料として1000万円が認められたものがあります(大阪地裁判決平成9年3月25日)。加害者側は重婚的内縁であり法的保護に値しないとの主張をしていましたが、裁判所は離婚後も8年間事実上の夫婦関係があったこと、事実上の夫婦関係の開始時点で前妻との夫婦関係が実質的に破綻状態にあったことが窺われるとして、加害者の主張を退けました。そして、加害者が飲酒運転をしていた上、事故後逃走したひき逃げ事故であることを指摘し、上記慰謝料金額を認めました。それ以外に、被害者の子どもによる本人と近親者固有の慰謝料請求について、合計1500万円の慰謝料を認めました。ですから、慰謝料の総合計は、2500万円となります。

内縁の夫婦の場合

料理店女将(78歳女性)が死亡した場合について、内縁の夫の固有の慰謝料として1300万円が認められました(大阪地裁判決平成21年12月11日)。加害者は、この事案でも重婚的内縁関係は認められないと主張していましたが、裁判所は、相当以前から内縁の夫の本妻との婚姻関係は破綻していたこと等を認定し、内縁関係が法的保護に値すると判示し、被害者に支えられて料理店事業を行っていたこと等を指摘して、上記慰謝料金額を認めました。これ以外に、被害者の子どもが被害者本人の慰謝料を請求していたところ、裁判所は1000万円の慰謝料を認めました。慰謝料の総合計は、2300万円となります。これによれば、被害者本人の慰謝料よりも、内縁の夫の固有の慰謝料の方が金額が高いということになりますが、それは内縁でない法律婚の夫婦であれば、慰謝料の半額を相続していたことが認められる音が考慮されているのだと思われます。

まとめ

高齢者については、高齢者だからといって特別扱いが明らかにあるわけではないといえると思います。高齢社会の世の中ですので、高齢者だから死亡慰謝料を減額するということには今後もならないと思われます。
内縁の場合については、やはり法律上の婚姻関係とは異なる扱いがされ、特殊です。保険会社は、重婚的内縁関係だとか有責配偶者だとか主張して、内縁が法的保護に値しないと主張する傾向があるようです。紹介した事例は、本妻が慰謝料請求していませんが、本妻が慰謝料請求をするようなことになると、その調整をどのようにするかは難しい判断になると思われます。そのような場合には、やはり一度専門家の弁護士にご相談していただいた方がいいと思います。