請求可能な損害 死亡事故の場合

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故により被害者の方が死亡した場合、ご遺族の方が請求することができる慰謝料のことであり、このなかには死亡された方の精神的苦痛に関する分も含まれます。

死亡慰謝料の相場については、3つの基準があります。それは、自賠責保険の基準、保険会社の任意基準、裁判基準です。

このうち、金額が最も高いのは裁判基準であり、最も低いのは自賠責基準です。

裁判基準では、亡くなった方が、ご家族を扶養する立場にあるかなどによって金額が変わることになっており、具体的には以下のとおりです。

一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2400万円
その他 2000万円~2200万円

(参照:損害賠償額算定基準平成24年版(赤い本)財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)

ただし、必ずしもこの金額に決まっているわけではなく、目安です。

任意基準は、保険会社によって異なって定められており、一般に公開されていません。

自賠責基準は、こちらです。

死亡逸失利益

死亡逸失利益とは、被害者の方が死亡したことによって得られなくなった収入が損害として認められるものをいいます。

死亡逸失利益は、以下の計算式によって算定します。

基礎収入×就労可能年数に応じたライプニッツ係数-生活費控除=死亡逸失利益

例えば、事故により死亡されたときに50歳の年収400万円のサラリーマンの方が一家の支柱で被扶養者が1人の場合、就労可能年数は67歳までの17年で、そのライプニッツ係数は11.2741であり、一家の支柱で被扶養者が1人の場合の生活費控除率は40%で、40%分を引くと残りは60%ですから、400万円×11.2741×0.6=2705万7840円が死亡逸失利益になります。

このように、死亡逸失利益は個別具体的な状況によって変わってきますので、死亡逸失利益の相場というものはありません。

それでは、計算の具体的内容について、詳しく解説します。

1.基礎収入とは

基礎収入は、給与所得者、自営業者、会社役員、主婦、学生などによって算定の仕方が異なります。また、個別事情によって変わってくる場合がありますが、一般的な考え方は以下のとおりです。

(1)給与所得者について

給与所得者の基礎収入は、原則として事故直前の収入です。つまり、事故直前の収入が同額で推移したはずという前提で計算するのです。実際には、年数の経過により収入の上がり下がりがあるのが普通だと思いますが、将来どうなるかを見通すことは困難な場合が多いので、事故直前の収入を基本とします。

これには、例外があります。1つは、10代20代の若者の場合、性別・学歴に応じた平均年収によるのが原則になります。それは、まだ就職していない学生の場合には性別学歴に応じた平均年収が基礎収入になるのに対し、就職したばかりの若者の実際の年収はそれより低い場合が多いため、就職したばかりの若者が不利な扱いを受けるのを防ぐことを目的としています。例えば、平成22年の統計(賃金センサス)において、大卒男性の平均年収は633万2400円、大卒女性は428万4900円、高卒男性は461万9000円、高卒女性は294万600円です。 

また、通常どおり勤務していれば収入が増額することが明らかな事情がある場合には、事故直前の収入より多い金額を基礎収入とすることが認められます。

(2)自営業者について

自営業者は、原則として確定申告の所得金額が基礎収入になります。ただし、税金を低く抑えるために申告金額を実際より低く抑えていることが認定される場合には、申告金額より高い金額が基礎収入とされることがありますし、性別・学歴・年齢に応じた平均年収より低い申告金額の場合に平均年収が得られる可能性が高いと認められれば平均年収が基礎収入とされることがあります。

また、家族が自営業の手伝いをしている場合、家族の寄与分が引かれて基礎収入が算出される場合もあります。

(3)会社役員について

会社役員(代表取締役、取締役など)については、役員報酬の全部が基礎収入と認められない場合が多いです。すなわち、基礎収入と認められるのは、役員報酬のうち、利益配当的な部分が引かれた残りの部分という考え方がとられています。つまり、残りの部分は、労務提供の対価と評価される部分になります。どのくらいの割合が利益配当的として引かれるかは、個別具体的な事情をもとに判断されますので、一概に言えません。

(4)主婦について

専業主婦は、女性労働者の平均年収によるというのが原則です。

兼業主婦(正社員、契約社員、パート、アルバイトなどを含む)は、実際の収入が女性労働者の平均年収を超える場合には実際の収入が基礎収入となり、実際の収入が女性労働者の平均年収を超えない場合には平均年収が基礎収入となります。

ちなみに、女性労働者の平均年収は、平成22年の統計(賃金センサス)で、345万9400円です。

(5)学生・幼児について

学生は、基本的に、性別学歴に応じた平均年収が基礎収入とされます。大学生の場合は、大卒の平均年収で計算しますが、高校生以下の場合には、大学に進学する状況が認められる場合には大卒の平均年収ですが、そうでない場合は全ての学歴を含めた平均年収とされています。

また、男性は男性の平均年収で計算しますが、女性は男性女性を合わせた平均年収で計算するのが一般的です。

幼児の場合も考え方は同じであり、基本的には、男児は男性の平均年収、女児は男女合わせた平均年収が基礎収入とされます。

(6)無職の高齢者・年金受給者について

無職の高齢者は、仕事に就く可能性が相当程度認められる場合には、性別年齢に応じた平均年収を基礎収入とします。

年金受給者は、原則として年金額が基礎収入と認められます。例外的に、遺族年金などは基礎収入と認められません。

(7)失業者について

労働能力と労働意欲があり、仕事に就くことができた可能性が高い場合に、後遺症逸失利益を認め、原則として失業前の収入を参考にします。失業前の収入が性別に応じた平均年収より低い場合には、性別に応じた平均年収が採用されます。

2.就労可能年数に応じたライプニッツ係数

(1)就労可能年数とは

まず、就労可能年数については、原則として死亡時から67歳までの年数です。つまり、一律に67歳まで働くということを前提にするのです。年単位で計算します。

ただし、これにはいくつかの例外があります。

学生や幼児の場合には、基本的に18歳から起算し、大卒を前提にする場合には大学卒業の年齢から起算します。

67歳以上の方については、平均余命(簡易生命表(リンク)というもので決まっています。)の2分の1を労働能力喪失期間とします。

また、67歳に近い年齢のため、67歳までの期間より平均余命の2分の1の期間の方が長い場合には、平均余命の2分の1が採用されます。

(2)就労可能年数に応じたライプニッツ係数とは

そして、就労可能年数が算出されたとしても、その数値がそのまま計算式にあてはめられるのではなく、さらなる計算が必要になります。それが就労可能年数に応じたライプニッツ係数です。

ライプニッツ係数とは、就労可能年数の数値に応じて決まっている数値であり、具体的には、以下の表のとおりです。

就労可能年数 ライプニッツ係数 就労可能年数 ライプニッツ係数 労働能力
喪失期間(年)
就労可能年数
1 0.9524 24 13.7986 47 17.9810
2 1.8594 25 14.0939 48 18.0772
3 2.7232 26 14.3752 49 18.1687
4 3.5460 27 14.6430 50 18.2559
5 4.3295 28 14.8981 51 18.3390
6 5.0757 29 15.1411 52 18.4181
7 5.7864 30 15.3725 53 18.4934
8 6.4632 31 15.5928 54 18.5651
9 7.1078 32 15.8027 55 18.6335
10 7.7217 33 16.0025 56 18.6985
11 8.3064 34 16.1929 57 18.7605
12 8.8633 35 16.3742 58 18.8195
13 9.3936 36 16.5469 59 18.8758
14 9.8986 37 16.7113 60 18.9293
15 10.3797 38 16.8679 61 18.9803
16 10.8378 39 17.0170 62 19.0288
17 11.2741 40 17.1591 63 19.0751
18 11.6896 41 17.2944 64 19.1191
19 12.0853 42 17.4232 65 19.1611
20 12.4622 43 17.5459 66 19.2010
21 12.8212 44 17.6628 67 19.2391
22 13.1630 45 17.7741 68 19.2753
23 13.4886 46 17.8801 69 19.3098

なぜ、このライプニッツ係数が問題になるのかといいますと、死亡逸失利益の損害賠償は基本的に死亡後すぐに一括で支払われるところ、事故がなければ毎月の給与として支払われるはずのものが補填されるものであるため、同じ金額になるのであれば一括で支払われる方が毎月支払われるより経済的に得をしていることになるからなのです。

例えば、毎月30万円(1年360万円)が30年間継続して合計1億800万円支払われる場合と一括ですぐに1億800万円が支払われる場合とで比較すると、後者の場合に支払後すぐに銀行へ預金した方が前者の場合より、もらえる利息が多くなるのは明らかです。

最近は預金の利息がとても低いのでピンとこないですが、利息が年4%であれば、その違いはとても大きいです(一括の場合、最初の1年間で432万円の利息がつきますが、分割の場合、最初の1年間では7万円位の利息にしかなりません。)。

そこで、その差をなくすために考えられた計算式がライプニッツ係数なのです。これを法的には、中間利息控除といいます。

そして、このライプニッツ係数は、実は、年利5%を前提に作られています。今時、年利5%の利息がもらえる預金はないと思いますが、最高裁で年利5%を前提としたライプニッツ係数を用いることを認める判決が出たため、実務上の運用が確定しています。

3.生活費控除とは

生活費控除(生活費控除率)とは、被害者の方が仮に生存されていれば生活費がかかるのに対し、死亡されれば死亡後に生活費はかからないことから、生活費の分を一定割合で控除して死亡逸失利益を算出することをいいます。

生活費控除率は、おおむね実務において決まっています。亡くなった方が、ご家族を扶養する立場にあるか、被扶養者が何人いるかなどによって金額が変わることになっており、具体的には、以下のとおりです。

一家の支柱 被扶養者1人の場合 40%
被扶養者2人以上の場合 30%
一家の支柱ではない女性 30%
一家の支柱ではない男性 50%

例外的に、年金に関する逸失利益の場合には、上記割合より生活費控除率が高くなる傾向があります。

4.まとめ

以上の内容に基づき、死亡逸失利益は、「基礎収入×就労可能年数に応じたライプニッツ係数-生活費控除=死亡逸失利益」という計算式によって算定されます。

葬儀費など

葬儀費は、上限が原則150万円とされています。なお、参列者からの香典の分を引く必要はありませんが、その代わりに香典返しの費用が損害として認められません。

また、仏壇購入費、墓碑建立費、遺体搬送料などが損害として認められることがあります。

この点、自賠責保険では、葬儀費関係は上限が100万円とされ、原則60万円と決められています。

治療費など

治療費などがかかった場合、原則として損害と認められます。

弁護士費用

基本的に、弁護士に依頼して裁判を起こして判決にまで至った場合に、損害賠償額の10パーセントの金額が弁護士費用の損害として認められます。実際の弁護士費用と同一の金額ということではありません。